行書(行書)について

概要

 楷書を少しだけ崩したような書体である行書は、楷書と隷書の中間的な存在であると思われがちです。しかし、行書はそんなに単純な書体ではありません。ポイントさえ押さえればそれほど書くことは難しくありません。ここでは行書を書く時のポイントについて解説します。

目次
行書

行書(行書)とは

 行書(ぎょうしょ)は草書と同じく隷書から派生した書体です。楷書とは違って点画の連続や省略が見られますが、草書のように楷書とかけ離れた字形になるということもありません。行書は速筆向きでありながら読みやすいという行書の長所を併せ持った書体です。

 楷書と草書の中間と思われがちな行書ですが、実は楷書よりも先(ほぼ同じ時期)に誕生しました。古代中国では同じような筆記体でも草書が手紙などで使われるより砕けた筆記体である一方で、行書は公務文書や祭礼の文書などより厳粛な場で使われる書体であると考えられていたようです。

行書の特徴

 行書には主に以下の5つの特徴があります。

  1. 点画と字形が曲線的になる……見た目
  2. 点画を連続することがある……手偏/灬など
  3. 点画を省略することがある……門/木編etc.
  4. 筆順が変化することがある……しめす偏の漢字/春など
  5. 点画の収筆が変化することがある……人:二画目のはらいが止めになるetc.

 この5つの特徴を掴んで書けば、行書を書くことはさほど難しくありません。行書も草書と同様に正書でなかったために厳格なルールが存在せず、自由な表現をすることができます。行書は特に表現の幅が広く、直線的に書けば楷書に近いものになり、点画を連続させてさらに曲線を増やせば草書に近いものになります。書き方次第で様々な表現をすることができるという点が行書の特徴であり、最大の利点です。草書のようにあまりにも崩しすぎると、受け手によっては解読が困難になることもあるため、手紙などの実用書で用いる際には、中学校国語科書写の教科書に記載されている程度の点画の省略が少しだけある字形がおすすめです。

中学校国語科書写参考
中学校国語科書写-参考

 行書は使われていた時代によって二折法のものと三折法のものがあります。楷書が成立する前(三国時代以前)は二折法、成立した後は三折法のものが登場したと考えられています。さらに、多折法(たせつほう)※というものもあります。

※多折法とは?

 折法の一種で波打っているような見た目をしています。黄庭堅の「伏波神祠詩巻」の一の字に見られます。三折法をさらに細分化し、始筆(起筆)、送筆、終筆(収筆)の各部分でさらに三つに分け、合計9単位に分割されます。

書く時のポイント

 ポイントは筆脈を意識することです。筆脈とは、字を書く時に実線では結ばれていないけれど気持ちの上で繋がっていることです。言い換えれば、目には見えない点画のつながりのことです。楷書にも筆脈はありますが、行書では筆脈が線となって現れます。筆脈の線は実線よりも細く薄くなるように力を抜いて勢いよく書きましょう。

 始筆も楷書のように力強く点を打ち込むのではなく、軽く入ることで行書らしく柔らかみのある線が出ます。転折の部分も丸みを帯びるように書きましょう。

 部首の省略の仕方は古典作品やお手本を見ながら学んでください。草書ほどパターンはないのですぐに覚えることができると思います。どのくらい省略するか、繋げるかなどはかなり自由です。いろいろな書風の行書を試してみてください。

臨書におすすめの古典

  • 「蘭亭叙」(らんていじょ)王羲之(おうぎし)
  • 「祭姪文稿」(さいてつぶんこう)顔真卿(がんしんけい)
  • 「風信帖」(ふうしんじょう)空海
「蘭亭序」王羲之
「蘭亭序」王羲之(303-361)
「祭姪文稿」顔真卿
「祭姪文稿」顔真卿 乾元元年(758年)
「風信帖」空海
「風信帖」空海(774-835)