漢字でよく使われている「へん(偏)」を書くときのコツ
「偏(へん)」とは「海」「仏」「村」などの漢字の左側に置かれている「さんずい」「にんべん」「きへん」などの部首のことをいいます。
右側の「旁(つくり)」(海では「毎」仏では「ム」村では「寸」の部分)をバランス良く配置するためには、「偏」の右端部分が飛び出さない(旁にかぶらない)ように揃えて書くことが大切です。
この規則に従って書くことで、よりスケールの大きな文字に見せることができます。
今回は「さんずい」「にんべん」「てへん」「きへん」「いとへん」「ごんべん」「くちへん」「つちへん」「ぎょうにんべん」「りっしんべん」「のぎへん」「ころもへん」「しめすへん」それぞれの【楷書と行書で書くときのコツ】と【書体の変遷が分かる字形表】、【お手本】をご用意しましたのでぜひご覧ください。
【書体の変遷が分かる字形表】では、多くの「偏」で篆書から隷書へと移り変わる過程で大きな字形の変化が見られます。
その理由は、「篆書」の複雑な字形が書きづらかった(書くのに時間がかかる)ので、少しでも早く書きたいという思いから「隷書」(篆書の字形を崩し簡略化させた文字)が生まれました。
氵(さんずい)
楷書の解説画像
行書の解説画像
1.行書のさんずいは、草書や簡体字(中国本土で使われている漢字を簡略した字)の「ごんべん」と字形が似ているため、同じにならないように気を付けましょう。
.行書の解説画像で書かれている 「連綿」 は、一般的に二文字以上の文字を続け書きすることをいいますが、文字の各パーツを繋げることも「連綿 」と表現されることがあります。そのため、今回の場合は「点画を連続させて書く」ことを「連綿」と表現しています。
楷書・行書のポイント
2画目をやや左側に配置することにより、立体感を生み出すことが出来ます。
また、1画目と2画目の間よりも、2画目と3画目の間の方を広くすることにより、文字の中の脚に該当する箇所が長く見えて、スタイリッシュな印象になります。
「氵(さんずい)」は水に関連のある漢字で使われる「へん」です。
篆書(画像左)では「水の流れ」をそのまま形にして表現されていましたが、隷書(画像真ん中)になると横線3本の字形へと大きく変化しています。なぜ篆書から隷書へと移り変わる過程で大きな字形の変化があったのか?
それは、篆書の複雑な字形が筆記する際に書きづらかった(書くのに時間がかかる)ことが理由と言われています。少しでも早く書きたいという思いから篆書の字形を崩し簡略化させた「隷書」が生まれました。
続いて「隷書」から「楷書」への変化を見てみると、角度に違いはあるものの字形の変化はあまりないように見えます。
最後に「さんずい」が使われている漢字「海」の字形表をご用意しましたのでご覧ください。
「海」と「清」はつくりの画数が多いため、「へん」よりもやや大きく書くとバランス良く仕上がります。
亻(にんべん)
楷書の解説画像
行書の解説画像
楷書・行書のポイント
楷書では1画目の書き始めを力強くし、点画の最終(はらい)に近付くにつれて少しずつ力を抜いていきます。これは、毛筆でも硬筆でも共通して文字を美しく見せるためのポイントになります。
行書で書くときは、1画で流れるように書き、最終部分を次の点画に繋がるように「はね」で終わらせると行書らしさが出ます。
「亻(にんべん)」は「人」に関連のある漢字で使われる「へん」です。
篆書(画像左)では「人を横から見た時の姿」を文字にして表現されていましたが、隷書(画像真ん中)になるとカタカナの「イ」のような字形へと変化しています。
楷書では1画目の終わりは「はらい」ますが、隷書では収筆部分をはらわず「とめ」ているところが特徴です。
最後に「にんべん」が使われている漢字「休」の字形表をご用意しましたのでご覧ください。
「にんべん」はつくりの画数に応じて大きさ(高さ)を変えてあげると、見栄えが良くなります。
「仁」はつくりの画数が少ないため、「へん」の方を大きく(高く)、
「使」はつくりの画数が多いため、「へん」と同じもしくはやや「つくり」の方を大きく(高く)書くとバランス良く仕上がります。
扌(てへん)
楷書の解説画像
行書の解説画像
2画目の配置を1画目の中心地点よりもやや右よりにすることで、重心がつくりの方へ寄って芯のある文字になります。
楷書では2画目を利き手の人差し指のスナップを効かせて真っすぐに書くことがポイント。
行書では2画目から3画目へとうつる時、実際には繋がっていないものの繋がっている気持ちで流れるように書きます。
「扌(てへん)」は「手」に関連のある漢字で使われる「へん」です。
篆書(画像左)では「5本指のある手」をそのまま文字にして表現されていましたが、隷書(画像真ん中)になると横線は水平、縦線は最終部分が丸みをおびた形へと変化しています。
また、楷書になると縦線の最終部分が「はねる」字形へと変わり、隷書よりもスマートな印象になりました。
最後に「てへん」が使われている漢字「持」の字形表をご用意しましたのでご覧ください。
「拓」と「技」はどちらもつくりの画数が多くはないため、「へん」と同じくらいの大きさ(高さ)で書くとバランス良く仕上がります。
木(きへん)
楷書の解説画像
行書の解説画像
楷書・行書のポイント
「木(きへん)」も「扌(てへん)」と同様に、2画目の配置を1画目の中心地点よりもやや右よりにすることによって、中心に重心が寄った文字になります。
行書の「きへん」は楷書の「てへん」と非常に字形が似ているため、区別するためにも3画目の起筆部分はつける(もしくは近づける)ようにしましょう。
「きへん」は「木」に関連のある漢字で使われる「へん」です。
篆書(画像左)では「木が大きく覆いかぶさっている」様子をそのまま文字にして表現されています。
楷書や行書の場合、最初の横線は1画で書きますが、篆書では2画に分けて書くことが多いです。その他、全体を見たとき篆書は縦長、隷書は水平という特徴もあります。
隷書から楷書への変遷過程は3画目が「とめ」から「はらい」に変わったくらいで大きな変化は見られません。
最後に「きへん」が使われている漢字「林」の字形表をご用意しましたのでご覧ください。
「村」はつくりの画数が多くはないため、へん」と同じくらいの大きさ(高さ)、「様」はつくりの画数が多いため、「へん」よりもやや大きく(高く)書くとバランス良く仕上がります。
糸(いとへん)
楷書の解説画像
行書の解説画像
楷書・行書のポイント
楷書で書くとき、5画目・6画目の点画を上の方に配置することによって、4画目の点画の脚を長く見せることができます。また、「偏」の足元に余白が充分に取れるため、スケールが大きくゆとりのある文字に見せることができます。
行書で書くときは、4~6画目を連綿させて書くため書き順が変わります。
「糸(いとへん)」は「糸」に関連のある漢字で使われる「へん」です。
篆書(画像左)では「より糸(複数の糸をねじり束にしたもの)」を文字にして表現されていましたが、隷書(画像真ん中)になると大きく字形が変わっています。
縦長で左右対称のより糸を再現した篆書に比べ、隷書ではこの書体の特徴である「水平」を強調するために、点画同士が詰めて書かれています。
隷書から楷書への変遷過程でも字形が大きく変わっており、楷書の方が縦長でスタイリッシュな印象になりました。
最後に「いとへん」が使われている漢字「約」の字形表をご用意しましたのでご覧ください。
「緑」と「結」はつくりの画数がそこそこ多いため、「へん」と同じか、やや「つくり」の方を大きく(高く)書くとバランス良く仕上がります。
言(ごんべん)
楷書の解説画像
行書の解説画像
楷書・行書のポイント
2画目を左側に飛び出すことにより、中心に重心が寄った文字に見せることができます。
また、「くち」の部分は1画目が下に、3画目が右にはみ出ることにより、バランスを保つことができます。
「言(ごんべん)」は「ちかい・ことば」に関連のある漢字で使われる「へん」です。
そもそもごんべんは「辛」と「口」を組み合わせて作られた「※会意文字」のため、篆書(画像左)では「入れ墨用の針」や「取っ手のついている刃物」と顔のパーツである「口」を組み合わせて表現されていましたが、隷書(画像真ん中)になると「辛」部分の字形が大きく変わり横線4本で表現されるようになりました。
会意文字・・・2つ以上の漢字を組み合わせて作られた漢字のこと。
隷書から楷書への変遷過程ではそこまで字形が変わっていないように見えます。
最後に「ごんべん」が使われている漢字「語」の字形表をご用意しましたのでご覧ください。
「話」と「詩」はつくりの画数が多くはないため、「へん」と同じくらいの大きさ(高さ)で書くとバランス良く仕上がります。
口(くちへん)
楷書の解説画像
行書の解説画像
楷書・行書のポイント
「口(くちへん)」は、「言(ごんべん)」のくち部分と同様に1画目が下に、3画目が右にはみ出ることにより、バランスを保つことができます。
行書で書くときは2~3画目を連綿にすることで見た目が曲線的で行書らしい字形になります。
「口(くちへん)」は「口」関連のある漢字で使われる「へん」です。
篆書(画像左)では顔のパーツである「口」を丸みのある字形で表現されていましたが、隷書(画像真ん中)になるとやや角張り、楷書(画像右)では隷書よりもさらに角張った字形へと変化しています。
篆書が縦長の字形であるのに対し、隷書は横長・水平、楷書は横長・右上がりの字形になっています。
最後に「くちへん」が使われている漢字「吠」の字形表をご用意しましたのでご覧ください。
画数に関係なく「つくり」の方を大きく書いた方がバランス良く見えます。
土(つちへん)
楷書の解説画像
行書の解説画像
楷書・行書のポイント
「扌(てへん)」や「木(きへん)」と同様に、2画目の配置を1画目の中心地点よりもやや右よりにすることによって、中心に重心が寄った文字になります。
「土(つちへん)」は「土」に関連のある漢字で使われる「へん」です。
篆書(画像左)では「大地の神を祭るために縦長に固めた土」の形をそのまま文字にして表現されていましたが、隷書(画像真ん中)になると縦線が短く、横長の字形へと変化しています。
楷書になると縦長に戻り3画目の「はらい」でよりカッコイイ印象になりました。
最後に「つちへん」が使われている漢字「均」の字形表をご用意しましたのでご覧ください。
画数に関係なく「つくり」の方を大きく書いた方がバランス良く見えます。
彳(ぎょうにんべん)
楷書の解説画像
行書の解説画像
楷書・行書のポイント
1画目と2画目の向かう方向に変化を付けることにより、文字に躍動感を見出すことができます。似た形の点画が連続する場合は、書き方に多様性を見出すことにより、見ごたえのある文字になります。
「彳(ぎょうにんべん)」は「道を行く」ことに関連のある漢字で使われる「へん」です。
篆書(画像左)では「十字路の左半分」の形状を文字にして表現されていましたが、隷書(画像真ん中)になると上部分の縦線がなくなりひらがなの「う」に似た字形へと変化しています。1・2画目が横に流れて文字全体が隷書の特徴である水平になっています。
楷書(画像右)になると水平から「はらい」を含む縦長のスタイリッシュな字形へと変化しています。
隷書から楷書へはあまり字形が変化しない「へん」も多いですが、「ぎょうにんべん」は大きく字形が変わっています。
最後に「ぎょうにんべん」が使われている漢字「行」の字形表をご用意しましたのでご覧ください。
「後」はつくりの画数が多くはないため、「へん」と同じくらいの大きさ、「徳」はつくりの画数が多いため、「つくり」の方を大きく書くとバランス良く仕上がります。
忄(りっしんべん)
楷書の解説画像
行書の解説画像
楷書・行書のポイント
1画目と2画目の形が非常に類似しているため、1画目は外に反らして2画目は縦線に寄せて書き変化を作り、見ごたえのある文字にしましょう。また、中心に重心を寄せて見せるために、1画目と3画目の間に十分に余白をつくり、ゆとりのある文字に見せることもポイントです。
「忄(りっしんべん)」は「心」に関連のある漢字で使われる「へん」です。
篆書(画像左)では、「心臓」の形が顕著であり印象的ですが、隷書や楷書に変化する中で線が省略され、心臓の形であった篆書の特徴が徐々に薄れています。
最後に「りっしんべん」が使われている漢字「憤」の字形表をご用意しましたのでご覧ください。
「性」はつくりの画数が多くはないため、「へん」と同じくらいの大きさ、「情」つくりの画数がそこそこ多いため、「へん」と同じか、やや「つくり」の方を大きく書くとバランス良く仕上がります。
禾(のぎへん)
楷書の解説画像
行書の解説画像
楷書・行書のポイント
1画目大きくなりすぎると頭でっかちな印象になるため、大きさに注意して書きます。2画目は左側に飛び出すことにより、中心に重心が寄った印象の文字になります。
「禾(のぎへん)」は「稲」に関連のある漢字で使われる「へん」です。
篆書(画像左)では「稲穂の先端が茎にたれかかる」状態をそのまま文字にして表現されており、縦線の部分が長い印象でしたが、隷書になると縦線がやや短くなります。
また、隷書の場合、縦線の長さを抑えるために、4画目を横に広げて書きます。こうすることによって、隷書の特徴「水平」を強調することができます。
最後に「のぎへん」が使われている漢字「秋」の字形表をご用意しましたのでご覧ください。
「私」はつくりの画数が少ないため、「へん」の方が大きく、「穂」はつくりの画数が多いため、「へん」よりも「つくり」をやや大きく書くとバランス良く仕上がります。
衤(ころもへん)
楷書の解説画像
行書の解説画像
楷書・行書のポイント
2画目の折れ曲がり角度が少し狭くなるように心掛けることで、3画目の縦線を長く見せることができます。
また、「偏」の下部分の余白を大きくすることが文字の脚の部分を長く見せるためのポイントです。
「ころもへん」と「しめすへん」は、楷書で書くと画数の違い(ころもへんの4画目のありなし)が生じますが行書で書くと全く同じ形になります。
「衤(ころもへん)」は「衣服」に関連のある漢字で使われる「へん」です。
篆書(画像左)では「衣服の襟元」を文字にして表現されているため、襟元の形が顕著に現れていますが、隷書に変遷する過程で線が省略されていることが分かります。
最後に「ころもへん」が使われている漢字「裕」の字形表をご用意しましたのでご覧ください。
「袖」はつくりの画数が多くはないため、「へん」と同じくらいの大きさ、「襟」はつくりの画数が多いため、「へん」よりも「つくり」をやや大きく書くとバランス良く仕上がります。
礻(しめすへん)
楷書の解説画像
行書の解説画像
楷書・行書のポイント
「礻(しめすへん)」の楷書は3画目の脚を長く見せるために、2画目の上部の余白を狭くすることがポイントです。
また、「しめすへん」と「ころもへん」は楷書だと違いがありますが、行書だと同じ形になります。
「礻(しめすへん)」は「祖先の神」に関連のある漢字で使われる「へん」です。
篆書(画像左)では「神様へのお供え物を捧げる台」を文字として表現されているため、台の形が顕著に現れています。隷書に変遷する過程でも字形はあまり変わっていませんが、「篆書は比較的縦長」「隷書は比較的横長」に書くことで差別化することができます。
最後に「しめすへん」が使われている漢字「祈」の字形表をご用意しましたのでご覧ください。
「祝」はつくりの画数が多くはないため、「へん」と同じくらいの大きさ、「服」はつくりの画数が多いため、「へん」よりも「つくり」をやや大きく書くとバランス良く仕上がります。
「偏」の書き方は、パターンを暗記すれば簡単に美文字になります。1日1つずつ勉強して、美しい文字を書くことを一緒に楽しみましょう。