墨の後始末について

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硯に入った墨

余った墨はどうするの?

 結論から言うと、余った墨は捨てたほうが無難です。というのも、墨は空気に触れた時から劣化が始まります。墨は磨った直後から成分の煤と膠が分離し始め(加水分解)、やがて墨の色が悪くなり滲みも汚くなってしまいます。この墨を宿墨(しゅくぼく)といいます。書道家の中には宿墨を好む方もいますが、初心者が宿墨を使用するのはおすすめしません。さらに、墨に含まれる膠は動物性のものなので、気温が高い夏場はすぐに腐ってしまいます。

 以上の点から、余った墨を保存するのはあまりおすすめしません。墨を捨てる際は反古紙やいらない布で墨を吸い取ってからゴミ箱へ捨てましょう。そのまま流しに捨ててしまうと流しが汚れてしまいます。

磨った墨の後始末について

 磨った墨は特に保存がききません。したがって、その日のうちに使い切るよう少しずつ磨っていくのが理想です。しかし、余った墨を捨てるのはもったいないと考えている方も当然いると思います。そんな方は墨を冷蔵庫で保管するようにしてください。冷えると墨はゼリー状に固まりますが、使うときに容器を湯煎で温めれば液体に戻ります。墨を冷蔵庫に入れることに抵抗がある人は日の当たらない涼しい場所で墨を保管してください。

 このように保管することである程度は腐敗を抑えることができますが、それでも加水分解は進行してしまうので必ず磨ってから2,3日で使い切るようにしてください

墨汁の後始末について

 墨汁(あらかじめ磨ってある墨)も固形墨と同様に容器から取り出したら劣化が始まってしまいます。ですが、防腐剤が入っているため固形墨に比べると腐敗の進行はゆっくりです。固形墨に比べると幾分長持ちします。固形墨と同じように冷蔵庫に入れて保管できます。ですが、液体墨の場合は半年以内に容器に入った墨全部を使い切る予定ならば、容器に戻しても大丈夫です。ただし、質の保証はできないので自己責任でお願いします。

墨汁を容器に戻す方法(出して二時間以内のものに限る)
  1. フタを開けた液体墨の容器の胴(真ん中の広い部分)を持ち、軽く押す(中身が多いと口から墨が飛び出しますので注意)
  2. 片方の手で硯を持ち、墨池を容器の口に近づける
  3. 胴を押さえていた手を緩めて硯の中の墨を吸い出す

 硯の中の墨を全部吸い終わるまで1~3を繰り返してください。最後に注ぎ口についた墨をふき取ります。容器は涼しい場所で保管するとより墨は長持ちします。どうしても墨を捨てたくないという場合以外は捨てた方が安全です。

固形墨と液体墨を混ぜてもいいの?

 磨った固形墨を保管しておく場所として、液体墨の容器を選ぶのは避けましょう。液体墨と固形墨は原料が異なります。固形墨が煤と膠で作られているのに対し、液体墨には膠の代わりに合成樹脂を使用しているものがあります。原料の違う墨を混ぜて使用、あるいは保管すると墨の色や質が変化する恐れがあります。膠を使用した液体墨であれば固形墨と混ぜても大丈夫かもしれませんが、あまりおすすめはしません。なるべく固形墨は固形墨、液体墨は液体墨で別々に保管しましょう