引く筆と押す筆  —順筆と逆筆—

概要

 何事も最初が大事とよく言われますが、書道も同じです。書道における最初は書き始めである起筆です。この起筆を変化させることで字全体を味わい深いものに変化させることができます。ここでは順筆と逆筆というテクニックを紹介します。

順筆(じゅんぴつ)とは

 順筆じゅんぴつとは筆の軸が先に動き、毛が軸に追従するように筆を動かすことです。筆で線を書く時の当たり前の動きであり、特に何も意識せずに筆を動かすと順筆になります。筆の軸で穂を引き回すように書いていきます。

 順筆は毛が後ろに来ることによって綺麗にまとまったまま字を書くことができます。そのため抵抗感がない綺麗で柔らかい線を書くことができます。しかし、あまり順筆がすぎると弱々しい線になってしまうので注意が必要です。

逆筆(ぎゃくひつ)とは

 何も考えず普通に筆を持って書く方法が直筆ですが、筆の軸と穂の位置を意識的に逆の順番にして書く方法があります。それが逆筆ぎゃくひつです。

 逆の順番とは穂先を先行させて、軸が後からついていくような書き方をします。つまり、逆筆では軸で毛を押し出していくように書きます。

 穂先を紙にやや押し付けるように書くので、当然穂先に負担がかかります。ですが、そうすることで生じる毛の捻じれや乱れが、逆に予測しにくい表現やより力強い表現へと繋がります。

逆筆の活用方法

 順筆では柔らかく繊細な表現、逆筆では荒々しく力強い表現を生むことができます。順筆だけで書いた書は綺麗に整いますが、いまいち変化に欠けた字になってしまいます。かといって、逆筆だけを使った作品は激しさが出るもののどうしても稚拙な字になってしまいがちです。

 極端にどちらかのみを用いて書くのではなく、二つの筆遣いをバランスよく使うことが大切です。例えば、順筆をベースとしながら、時々逆筆を交えることで線に生き生きとした表現が生まれてきます。

 引きの順筆、押しの逆筆と覚えて、積極的に書の中に取り入れてみましょう。