三種類の煤の特徴と違い
墨の原料による違い
墨の原料となる
松煙墨
松の木を燃やして得られた煤でできた墨です。歴史としては最も古い墨の製造方法です。煤の粒子が粗く不均衡であるため光沢が少なく、色の幅が広くなり深みのある色になります。
松煙墨は長い年月が経つと色が青くなっていきます。(実際には薄いグレーといったような色をしています。水墨画の色を想像すると分かりやすいと思います)そのため松煙墨は青墨と呼ばれます。淡く磨った松煙墨は柔らかく優しい印象を与え、濃く磨った松煙墨は艶が無くどっしりとした印象を与えます。このように、一つの松煙墨から様々な表現をすることができます。
油煙墨
菜種油や椿油などの植物性油脂を燃やして得られた煤でできた墨です。松煙墨に比べると粒子が細かく均一なのが特徴です。そのため濃く磨ったものは見た目も艶やかで光沢があります。磨った墨の断面を見れば松煙墨との違いは明らかです。
また淡く磨った場合、植物性油の原料となる植物によって書かれた墨の色も変わって見えます。例えば、菜種油から作られた墨は茶色味を帯びた墨(茶墨)になります。胡麻油から作られた墨は赤色を帯び、椿油から作られた墨は紫を帯びた墨となります。このように、同じ油煙墨といっても一概にすべて同じ色であるとは言えません。
洋煙墨
石油や石炭などの鉱物性の油を燃やして得られた煤に、コールタールやカーボンブラックを混ぜて作られた墨です。改良煤煙墨とも言い、プリンターのインクの原料とほぼ同じです。現代の墨のほとんどがこの洋煙墨を使用したものであるようです。洋煙墨は光沢がなく、くすぶったような重い印象を持った字が書けます。他の二種類の墨と比べると安価で手に入りやすいものですが、それゆえに品質は劣っていると言われます。
墨の色とは
ここで言う墨の色とは、煤の粒子が光を反射することによって見える色のことを指します。つまり、煤が持つ色素によって色が出ているのではなく、煤の粒子の大きさによって見える色が変わるということです。粒子が小さくなるほど青→紫→赤→茶というように色が変わって見えます。墨を淡く磨った時(淡墨)だとより分かりやすいです。
墨の違い特徴早わかり表
煤の種類によって異なる趣の字を書くことができます。初心者にはこの墨、上級者にはこの墨、というように不向きや書きやすさというものはありません。自分が書こうと思っている字の雰囲気や与えたい印象などによって使う墨を変えてみると面白いと思います。
下の図は、墨の原料による特徴の違いを表したものです。墨にこだわりたい方や、自分が使っている墨が何からできているのかを知りたい方はぜひ参考にしてみてください。
それぞれの墨の特徴 | ||||
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墨の種類 | 原料 | 淡墨にしたときの色 | 特徴 | |
色の幅 | 光沢 | |||
松煙墨 | 松の木 | 青みがかった黒 | 色の幅が広く、濃い墨から薄い黒まで(青墨)ある | 光沢はないが深みがある |
油煙墨 | 菜種油/胡麻油/桐油/大豆油 | 茶色味を帯びた黒(茶墨)から赤味や紫色味を帯びたものまである | 幅広い色を持つ | 粒子が細かいため、光沢がある |
洋煙墨 | 鉱物油/カーボンブラック等 | 純黒 | 色の表現に乏しい | 艶が無く、伸びも悪い |
どの墨にもそれぞれ長所短所を持っているため甲乙つけがたいのですが、まずは使ってみなければ自分に合う墨かどうかはわかりません。いろいろな種類の墨を使い比べてみてください。