ぼくせき 墨跡

 墨跡ぼくせきとは、墨と筆を用いて書いた文字を指す言葉。さらに意味を限定すると禅宗の僧侶が書いた書のことを指す。前者は真筆とほぼ同じ意味を持つ。後者の墨跡は別名禅林墨跡ともいい、日本独自の呼び方である。禅林墨跡は鎌倉時代頃から書かれるようになった。当時の日本では和様書道一色であったが、仏教を通じて日中の交流が再び始まり、禅宗の伝来と共に禅宗の書である墨跡が流行した。(以降「墨跡」は禅林墨跡の意で用いる)

 墨跡は印可状や法語といった修行の一環で書くものであり、観賞用として芸術性や書の技法を追求して書かれることはない。しかし、書いた人物とその内容が特に重視され、字の巧拙は重視されないといった一面もある。

 墨跡として有名なものに、一休さんで知られる禅僧一休宗純が書いたとされる『一休宗純墨跡偈』や、虚堂智愚(きどうちぐ)という僧侶が書いた『虚堂智愚法語』(別名「破れ虚堂」)がある。